〝介護劇〟 なかよし老人
観劇日時/17.11.25 13:30~14:30 上演団体名/妹背牛町・町民劇団 主催/NPO法人 わかち愛もせうし  後援/妹背牛町・妹背牛社会福祉協議会 作・演出・音楽/渡辺貞之  プロデューサー/水上明・河野和浩 メイク/山上佳代子  音響・照明/河野和浩 舞台/菊井孝弘・山﨑欣也・永井雄基   会場/妹背牛町民会館 出演者/80歳以上から小学生までの20人の町民の皆さんたち

死に直面する世代

 最近、高齢者の生存年齢が高くなっているのは好ましい状況なのだが、その良い状況を保つためには様々な施策や工夫が欠かせない。実際には元気な高齢者はまだしも、死を意識せざるを得ない高齢者の心情はどうなんだろうか? 僕自身もその範疇に入る世代だ。
 高齢者を含む家族や社会組織の話題を中心とした舞台作品は時々見かけるが、必ずしも高齢者自身の主観的な立場から描いているものは少ない。例えば去年5月に観た「イナダ組」の『シャケと爺と駅と』や、同じく7月の「YHS」公演『忘れたいのに思い出せない』などは死に向かっている高齢者に対する周りの人たちの心情の交流が主な展開だ。そしてその他にも例えば『アンネの日記』は死に直面する少女の心情を描いている万人の知る著名な作品だ。
 それに対して今日の舞台は、介護劇と銘打って、その高齢者の主観から描いた舞台作品なのだ。だから当然、誰もが必ず一度は直面する死への心情の展開が中心だ。
 でも、それを議論や解説で表現するわけじゃない。80歳を超えた高齢者から小学生までの20人の町民が参加するリアルな群像劇で、家族の団欒が、ささやかで微笑ましい諍いだったり、家族同士で仲間を作って同居する計画、助け合って「オレオレ詐欺」を機智で未然に防いだり、不倫からの仲間割れの暴力沙汰が突出したり和解したり、身近で賑やかで楽しくてスリルがあって町民劇とは思えない完成度の高い舞台劇だ。
 その中でやはり中心となるのは何度も言うように、現実として死と向き合わざるを得ない高齢者の心情の葛藤であろう。ラストで仲間の一人のおばあちゃんが認知症の夫を残して突然に亡くなる。仲間の高齢者たちは、自分にも間近にある事として厳粛に受け止め、自分にとっての死とは何か、死を迎えてどう生きるのかを考える。
 設備や構造が舞台創造には適しない会場を上手く使って、テンポよく淀みのない流れを作った舞台創りも、観客の気を外さない高い技術力だった。
 絵画を宣伝ポスターに、短詩系文芸を標語に、音楽をCMに使ったりするのと同じように、これは演劇を高齢者の精神生活をモデルに使って啓発した見事な芸術利用の優れた作品だったと思う。